花葬里

生きたことを、忘れないで。

寂しい。お腹がすいた。

  過ぎた二週間は、思い出しても思わず吹き出してしまうほど、面白かった。

  一言でいうなら、そうだな、タイトル通りだ。

 

|餓死する設定を顔に出しているバカ。

 

  語ろうしたら自分のバカっぷりに呆れるばかりだが、まあ、順を追って書きましょうか。

 

  今年の最初の出勤日のお昼に、今まで通りに、PASMOを持って食堂に向かった。で、食堂に明かりもなく、誰もいなかった。自分と同じようにその状況を目にした人たちは少しためらった後に引き返した。人込みが外に向かっているように見えるから、ついていった。少し遠いが、思い切ってコンビニに向けて、とりあえず何かを買って食べればいいと思った。

  店に入って、悩んだ末に、パンとミルクを手にして、会計の列に並んだ。列が進んでるうちに、自分はお財布を持ってこなかったことに、パッと気づいた!そして慌てて品物を棚に戻し、コンビニを出た。

  空腹のままオフィスに戻り、室内にある自販機に向けた。財布を持っておやつの前に立っていたら、どこにお金を入れればいいのかわからなくてまた焦った。仕方ないから、勇気を出して、隣で飲み物を買ってる人に使い方を聞いた。ベランダで買ったものを素早く食べ終わって席に戻ったら、昼休みが終わってしまった。

  憂鬱すぎて、スカイプで先輩に愚痴を言ったら、「PASMOでもコンビニは払えるじゃん?!」と突っ込まれた。

 

  …ふむ。いいでしょう。

  明日からは何か食べるものを持ってこよう。

 

  …って!私のバカあああああああ!!

 

|無意味だけど、コロナのせい。

 

  木曜日の午前中に、同じフロアに感染者が出た。すぐフロアが封鎖されるとの知らせが来た。少し情けないとは思うが、本当は一瞬で目の前に広がる未来が暗くなった。このビルは次々と各フロアで感染者が発見され、封鎖されていく。この国、全世界は、コロナから生き延びられるんでしょうか。私たち人類は、こんな警戒しながらの生活の終わりを迎えられる日が来るのでしょうか。

  悲しみと少しの絶望の気持ちで、家に帰った。待機のために食材の補給をしないといけないのだが、それも構わずに、ただただ家に帰りたかった。外にいること自体が怖くて仕方がなかった。

  そして五日、あまり食事を取っていない日々を過ごした。

  途中で一度スーパーに行こうとしたことがあったが、カバンに財布がなかった。恐らく会社で飲み物を買ったときにロッカーに置いてしまったと思う。もちろん、そう思いたい。だから、封鎖が解除されるまで何とか持ちこたえたいと思った。

  だけど、三連休が明けて、封鎖は続いた。課長もそろそろ焦ったみたいで、私の住処まで在宅作業用の端末を借りて持ってくれた。丸一日を使って設定を終わらせて、私も本気でお腹に何かを入れたいと思った。

  夜七時にカバンを持ってATMに迎えたが、通帳がカバンに入ってなかった。家に戻って通帳を取ってお金をおろしたが、入ったサイゼリアのラストオーダー時間が過ぎてしまった。スーパーで数日の食材を買って帰る途中の中華料理店で夕飯を食べようとしたが、店が開いていなかった。仕方ないのでそのまま家に戻って自炊した。

  その時を飢えと言ったら、今思い出しても胃が痛くなる。

 

|不謹慎だけど、コロナのおかげ。

 

  そんな待機生活の中で、一つだけ、いいことがあった。

  封鎖の翌日は、私の誕生日だった。

  元々誕生日なんて祝っていなかったし、毎年平日だから、早めに仕事から上がって家に帰ってゆっくり休むことすらできなかった。だけど今年は封鎖ゆえの待機で、結果からみ見れば、一日の休みが取れた。

  これだけでも、十分ありがたいと、私は思う。

 

 

|君の世界に、私はいないかもしれない。

 

  誕生日の日も、三連休中も、ゆうくんとゆっくり話ができた。電話で。

  言いたいことや知りたいことがありすぎて、色々焦りすぎた。

  一日あれば、一生の喜怒哀楽を全部想像で描けてしまうほどの乙女心と違って、向こうにとっては、まだ何も起きてはなかったのでしょう。気持ちが抑えきれないほど溢れれば溢れるほど、すべてブラックホールに吸い込まれたような虚しさが育っていく。

  寂しさというのは、一緒にいたいと思える相手がいないと、分からないものだ。

  ただ、そうだとしても、私は今の苦しみに感謝している。相手からの答えがあろうがなかろうが、この気持ちとこの感情は、私の大切な宝物だから。私がここに、生きている証の一つなんだから。

 

|あんちゃん家の鍋。

 

  私は鍋が好きだ。

  拒食症とかも関係ない。別に鍋を食べ物として好きではないから。ただ、暖かいものが好きで、特にスープのついている食事は落ち着く。それだけあれば、他の食物は特に摂取しなくていい気がするぐらい、安心する。

  だけど、大抵の時、鍋を食べたいとは思わない。思っても実際に食べに行かない。今のところ、あんちゃんとしか、鍋は食べたくない。ほかの人とは一緒に食べたいとは思わない。だから、先週の土曜日、食費を前払いして、一週間前に予約して、一緒にスーパーで食材を買って、好きなものだけを選んで、あんちゃんの住処を訪ねた。

  乗り物だけ一時間はかかる。初めて路面電車に乗った。電車から出て、都電荒川線を見つけたとき目を疑ったぐらいだった。注意書きの和装女子が可愛かった。

  あんちゃんは一人で二階建ての一軒家を借りて住んでいる。結構古い建物だ。台所が一回にあって、部屋は二回にある。本当は部屋が二つあってルームメートがいたのだが、わけがあってあんちゃんが一人暮らしになった。使えるスペースが十分あって羨ましいのだが、こんな広い部屋に一人で暮らすというのも、また寂しいものだと思った。

  初めてこたつに入った。正直、まったく幸せそのものだった。私が憧れている家族のぬくもりは、こたつもその一部だった。これで正月並みの気分にもなれた。

  鍋は入れないぐらいいっぱい食べた。私は満足だった。

  お話もいっぱいできて、楽しかった。

 

|終わりに。

 

  先週の木曜から封鎖が解除され、出社できるようになったが、今週からははやり在宅で作業することになった。封鎖や待機や在宅などで、仕事の進捗はますます厳しくなったけど、頑張りましょう。

 ちなみに、タイトルは『夏目友人帳』の第一話で出たセリフだ。自分の気持ちとピッタリなのでお借りした。

 

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