花葬里

生きたことを、忘れないで。

2021年の始め方。

  どこかで落ち着きたい…と思った。

  そしたら、やはりブログを再開することにした。KTTさんに今年の目標を聞かれたとき「ブログに戻る」と答えたように。

 

|KTTさん家の日常体験

 

  今年の年末年始は、つまり年越しは、KTTさんと、KTTさんの家で、過ごした。

  「家」とは言え、私と同じく、借りたマンションの一室に過ぎないし、「過ごす」というのは、お互いは心底から「KTT家日常体験旅」と名付けた三泊四日の寝泊まりだった。

 

  彼女はしっかりしていて、自分に厳しい人だ。

  コロナ禍のせいで、予定にほとんど外出という内容がなかった…と言いたいところだが、おそらくコロナ禍がなくても、私たちはあまり外出しないようにしていたのだろう。普段月に一度のお出かけも偶に家で食事を作って話をすることになっているし、KTTさんの日常を体験することこそ今回の訪問の目的で狙いだったから。そして、早起き早寝、一日は一食半の食事しか取らない、起きている時間は半分が各自の読書で、もう半分はお話をするような生活が、始まった。

  もともと彼女のそういう常識より厳しい生活パターンを知っていたとは言え、自分も精神的に身体的に何の不自由も不具合もないことに驚いた。どころか、自分の部屋にいる時よりも頭がしっかりしていて、日本に来てからずっと体に巻き付いている病弱感がすっかりなくなっていたのだ。やっと読書を望むがままに楽しめるというのも大変ありがたいが、これもこれで奇跡と呼べる収穫ではないのか。

  なぜそんなことを言えるかというと、昨日自分の部屋に戻って三十分も経っていない間に、空腹感が湧いてきて、胸が苦しくなり、めまいがして、すっかりもう先は長くないといういつもの重病状態に戻ってしまったからだ。

  私は何とか風水でこの体験の差を解釈しようとした。それに対し、KTTさんはさりげなく、「あなたの言う、自分が自分のことを認めていないという認識の仕業じゃないのか」と評価した。

  そうだった。昨日の最後の話題で、こんな結論を出したのは、私自身だった。

 

  「君と私とは、こんな違いがあると思う。君は君自身を認めている。もし自分と同じような人と出会ったら、きっと相手に惹かれ、生涯の友として親しき仲を築いていくのだろう。そして私なら、きっと相手をひどく嫌悪し、関わらないように避けていたのだろう」

   と。

  なのでその可能性を認めざるを得なかった。

 

|今日も悪夢から目覚めた。

 

  今日は一月三日。

  そして三日連続、私は悪夢から目覚めたのだ。

 

2021/01/01:

  神社でおみくじを引いて、大凶だった。

  祝日御神籤は一律大吉になっているゲームで、この不吉な心情を和らげようとログインして見ると、開いた御神籤は、灰色の空な紙になっている。

  どうやら神様があらゆる術を駆使して私に今年運勢を伝えようとするほど悪運だった。

冷汗が出た。

  そういえば、日本に来てから毎年、おみくじはあまりよくなかったな。

 

2021/01/02:

  パソコンを起動したら、OSがWIN98になり、タスクバーやファイルブラウザーを含め、画面の何から何までが三つに分かれ、探したいファイルが見つからずにイライラする。いつもやっているゲームを終了しようとすると、どこから煩いCMの音が流れてきて、タスクバーにそれらしきものを見つけたが、閉じようとすると姿が消える。仕方ないからもう一度やっていたゲームを起動して、やっと犯人と見えるCM画面が現れ、閉じることができた。

  なんといういやなCMだ。迷惑というより、呪いだ。

 

2021/01/03:

  兄は、自分が企んだように事故に遭って入院した。

  両親と自分は世話をする時間がなく、兄の面倒を見る役目を、叔母に押し付けた。

けど、こちら三人も含め、祖母まで日に日に衰弱していて、ある夜の帰り道で、私はもしかしてと思って集中して観察したら、やはり、叔母が生霊として母の耳元で呪いをかけていた。自分はその場で涙ながら謝り、兄の世話は自分たち肉親でやるからどうか見逃してほしいと命乞いをして、叔母の生霊はやっと離れていった。だが当日はもう遅いから翌日から病院に通うことに、その場の皆が頷いた。

  そして帰宅後、皆が祖母におやすみの挨拶をしていると、祖母が人形の首しかない存在であることに初めて気づき、先ほどゆっくり閉じた目ももう二度と開くまいとわかってしまった。

 

  あえて言うなら、今日の内容のほうがいつもの悪夢と似ている。

  よく知っている家族。

  よく知っているプレッシャー。

  よく知っている迷惑の掛け合い。

  よく知っている責任の擦り合い。

  よく知っている、恐怖。

 

  その呪いの音が止まず、その光景はまだ目に焼き付いている。

  家族からの連絡が一切呪いとなり、記憶にある思い出の場所はすべて葬式となる。

 

  ベッドに身を竦み、体を起こす力もなく、起きて一日を始める勇気もなく、ひたすら泣いていた。次第にどうしようもなくなり、大声を出して泣き続けた。どうせ誰も聞いていないし、誰も悲しまないし、誰も知らないし、誰の迷惑にもならないからいいじゃないか。我慢しても、気持ちを解放しても、自尊心を守ろうとしても、みっともない姿をさらしても、誰も、気にしないんだから…

 

|自分が作った世界では、とても生きられない。

 

  自分が作った閉じた世界で生きてきた。このまま生きていくと思っていた。だけど、人に迷惑をかけずに自由に生きられるのはいいことだが、時々どうしようもなく怖くなって、今まで見栄を張った分、生きていく勇気が底抜けになる。

  こんな遠い国まで逃げてきたのに。

  一人で地獄の底からここまで這い上がってきたのだ。

  今更、こんな時に、本気で、助けを…求めたくなる。

 

  怖い。

  助けて…

 

  同時に、私はわかっていた。用意した逃げ場さえあれば、私はすぐ立ち直れる。

さっきまでの絶望を忘れ、日常に戻れることも。たとえ一生この呪いから逃れなくても、私は、普通に生きていると見せられるのだ。

  そう、ポジティブに考えれば、恐怖こそ気のせいでまやかしだ。まともに生きていれば、誰しも悩みの一つや二つも抱えている。自分だけが不幸だなど、被害者妄想も甚だしい。

  だから。大丈夫だ。きっとなにもなかったし、なにもないのだ。

 

|神社に行きたい。

 

  それでも、破魔矢だけは、もらっておきたい。

  だから今日は、本当はゆうくんと食事の後、神社に連れていてもらいたかったのだ。

  だけど昨日もらったメッセージですでに予定を入れていることがようやく知ってしまった。

  一瞬で気が抜けてしまった。

 

  KTTさんの言う通りだ。

  ゆうくんはどう見ても私のことが気にしていないし、食事の誘いもただのお世辞だった。なのに私は必死に大事にされている証拠を探して、自分を騙そうとする。言われた当時はその場で思わず反論したが、本当は最初からわかっていたのだ。ただ、事実に突きつけられるまでは認めたくなかった。そしてこれでようやく諦められる。

  「ねえ、知ってるか。

  私は特別に積極的なタイプなんかじゃないよ。

  あなたの一言で、すべての勇気を失うぐらい、普通の、弱い女の子だ。」

 

  ――さようなら。

 

 

|終わり。

 

  来週の休日に、一人で神社に行こう。

 

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